目の前に氷山が迫ってきたので、操舵手に、
「あれ、氷山じゃあないですか」と聞く。
「ああ、そうだな。」
「まっすぐ進んだらぶつかりませんか。」
「ぶつかるかもしれないな。」
「ぶつかったらどうなるんですか。」
「沈むな。」
「沈んだら、どうなるんですか。」
「今日の海の状態なら、悪くしたら死ぬな。」
「冗談、言わないでくださいよ。どうするんですか。」
「誰か、助けに来てくれるよ。」
「進路、変えないんですか。」
「上が、まっすぐ進めと言っているから。」
「上に、報告して、指示を仰がなくていいんですか。」
「今、寝ているから、起こすと怒られるんだよ。」
「そんな事、言っている場合ですか。皆、氷山が近づいているぞ。」
「大丈夫です。僕は見ない事にしますから。」
「大丈夫じゃあないんだよ。ぶつかるんだよ。」
「なかった事にしましょう。」
「そういう事ではないんだよ。そんなことできるわけないだろう。」
「皆、大丈夫と言っているから、大丈夫ですよ。」
「何、言ってんだよ。ほら、ぶつかったじゃないか。」
「お前が、注意しないからいけないんだよ。俺の責任じゃないからな。」
と操舵手。
こんな船員がいたら半端なく変。
怖くて、一緒に船なんて乗ってられない。
今の日本人は、こんな船に乗っているようなものだよ。
本当に運命を共にできる。
こうなったら、自分達で、自分達の命を守らないとね。
若い連中さ。こんな大人達に自分達の運命、委ねるの。
目を醒ませよ。目を…。
氷山が迫っているんだよ。
異常な事は、異常なんだよ。