皆、いい加減、目を覚ませ。
一人では、何もできないんだよ。
一人ではさ。生きていけないの。
助け合うしかないんだよ。
どうやったらさ、皆とうまくやっていけるか。
終戦直後は、子供だって家の状態を理解し、貧しかったけど助け合って生きてきたんだ。
今は、豊かかもしれないが、皆、自分勝手。
少しでも思い通りならないと、他人の性にしてなんの努力もしない。
創業期のはな。
住み込みの人間が、十何人といて。
俺は現場の連中と寝食を共にし。
同じ釜の飯を食ってきた。
早く、大皿に盛っておかずを出すから、おかずを食べないとなくなってしまうので、おかずを掻っ込んで。
それから、ご飯を食べるから、長い間、白飯だけ食べる癖があった。
友達に家にいて冷蔵庫の中のジュースをみて、お前んち金持ちだなって。
生まれってすぐ、俺と姉、妹は、別棟で子供だけで生活させられ。
毎日、おまるを交代で持て母屋に戻ったものさ。
別棟と言ってもな。事務所の上の小さな部屋だけどな。
姉の決まっても、父も母も忙しくて。
姉は、結婚間際にスキーにいて骨折して。それでも、松葉杖ついて、家事をしてな。
結婚前日に、初めて、私は、一家団欒を知らなっかった。
結婚式までの数日は、母と過ごしたかったて泣いたんだ。
お前に現場の人間の気持ちが解るか。
あいつらの気持ちはな、ものすごく繊細なんだ。
物凄くひねくれていて、劣等感の塊で、ちょっとした言い草で、馬鹿にすんなって怒鳴った奴もいるけど。
根は純情で、一緒に同じ釜くって、酒を飲めば心は通じる。
一人一人には、いろいろな事情があって。
一括りにしては語れない。
奴らが一番嫌いなのは、小ずるく、器用に、立ち回って。
仲間を平気で裏切るやつ。不誠実で、嘘つき。
現場の連中を、あんまり、舐めないほうがいいよ。
あいつらには、独特の嗅覚が働くからな。
それを忘れない事だな。
現場の人間は体張ってお前を守るほど、甘ちゃんではないよ。
奴らに体張って守ってほしいなら、奴らと体を張って戦う覚悟するんだな。
何のとりえもなく、人から馬鹿にされ、地を這うようにして生きて、虫けらのごとくあしらわれてきた連中の気持ちがわかるなんて簡単に言わんほうがいいよ。
認められたくとも、認められない。誰からも相手にもされない。器量だってよくないし、気だっても悪い。
ほんと、いいとこなし。それでも生きていかなければならない。
俺の親父は、小学校しか出ていないし、ばあさんは、小学校に上がる前に子守に出されたから、字も読めなった。
その親父とばあさんが俺の誇りだ。
現場の連中の気持ちなんてわかるわけがないし。
わっかたところでどうしようもない。
それより、彼らの生活が成り立つようにするのが精一杯。
どんなに彼らを理解したところで、裏切られる時は、裏切られる。
それでも信じるしかない。
甘ったれた事言っているんじゃあないよ。
経営は、社員数の4倍の人間の生活を担っているんだよ。
潰れたらかまどの灰まで持っていかれるからなって言われてきたんだ。
それでいても、裏切るときは裏切る、千円でも高ければ、寝返るからな。
それでも信じるしかない。
ついてくる奴がいれば自分を信じて、従う奴を信じるしかない。
信じられるかと聞かれたら。信じられるかというしかない。
信じられるかられないかの問題ではなく。
信じるのだ。意志の問題だ。
好き好んで頭が悪いわけではないの。
同じに勉強しても出来のいい人間と悪い人間はいるの。
プロ野球の選手になりたいと思っても公式の試合すらでれない人間がいるの。
そいつらの悔しさ、辛さなんてわかるものか。
わかったところでどうしようもない。
あいつらに、平等なんて言ったって、通用なんてしない。
なぜなら、どんなにがんばったって、努力したって、できない事はできない。
わからないことはわからない。
馬鹿は、馬鹿だし、阿保は、阿保。
力がなければ、やりたくたってできない。
あきらめるしかない。
挫折し、絶望し、あきらめていくしかない。
そんな奴らに、どんな、夢持てというのよ。
そんなの理屈じゃない。
現実だよ。現実。
あるがままの自分を受け入れ、正直に生きるしかないじゃないか。
頑張ったって、頑張ったって、できないものは、できないんだよ。
認めるしかないじゃない。
そんな事は痛いほどわかている。
でも、そういう彼らだって人並な生活はしたい。第一生きていかなければならない。
そういう意味では、平等だ。
何のとりえもない、技術だって、知識も。
そう根気もないし、やる気もない。
足し算も引き算もできない。
そういう人間を集めて一人前の生活をさせる。
それが俺たちの仕事。
ない物ねだりしたって仕方ないじゃない。
じゃあ、功成り名を遂げた者は、幸せになれるかというと、そうとは限らない。
富や名声をえたが故の、不幸もある。
金があれば幸せになれるかというと世の中それ程甘くない。
多くの権力者の末路は哀れ、無残なものである。
今は、普通の状態じゃあない。
非常時だというのは、子供でもわかるよ。
それをどう分析し、専務に、何を進言するか知恵を絞るのがマネージャーの仕事だろ。
自分の言いたい事を、状況や役割もわきまえず言うのは、小学生いかだ。
俺たちが子供の頃は、小学生だって家の手伝いんし、仕事をしたら家に仕送りしたものだ。
トップに決断を求めるなら、トップが間違ったり、迷わないように補佐するのが勤めだろ。
トップになんの根拠も示さず。
いきなり、決断を迫ったり。
迷わせたり。最低だと思わんか。
俺は、お前に同情なんてしないよ。逆らえば叩き潰すまでよ。
お前だって納得がいかなければくらいついてくるだろ。
俺達は、家畜にはなれない。
見栄なんてはる柄じゃない。
戦えという方針が出たら戦うしかないじゃないか。
ただそれだけよ。
ぴいぴい、泣いてなんかいられるかというの。
俺には、学歴も、家柄も何にも関係ない。
ただ、互いに認め合うか否かだ。
一度、こうと決めたらとことんやるしかないじゃないか。
しょうがねよ。
やり抜くしかないさ。
人の一生はさ、仕事に惚れるか、人の惚れるか、伴侶に惚れるかで決まるに。
命を懸けられるほどの仕事に、人に出会えるかで決まるのよ人生は。
惚れるものに出会えない人生なんて、哀れで、むなしく、みじめ。
たった一度の人生、命がけで惚れなよ。