微かに風が吹いてきた。
もう、夏の終わりか。
微かな風に秋を感じる。
晩夏。
「夏の空じゃあないわ。」
家内が言う。
コロナ騒ぎが始まってからどれくらい立つのだろう。
誰も最初はこんなに長引くなんて思ってもいなかった。

「秋の虫が鳴いている。もう夏も終わりね。」
「今年の夏は、何もできなっかた。」とつぶやく。

もう駄目だと、言いたいのだけど。
言うには、まだ早い。

いろいろな事があったな。

確かに。

今日も。また、雨が降る。

決定的な事ではないけれど。
あいまいで、怪しい陰が付きまとう。

ハッキリしないな。
でも、ハッキリする事を考えると恐ろしい。

「夢さ。」
夢であってほしい。

でも、現実なんだ。

いいしれない、漠然とした不安。

「変な天気。」

日本人はマスクが外せない。
いつの間にか、マスクが生活の一部になって。
マスク美人なんて笑うに笑えない。

自分の顔を隠すことが当たり前になり。
素顔を曝す事もできない。

何なのだろう。
「夢さ。」

歴史の危うさは、過去の怪しさだし。
取り戻せない記憶にあるのだから。
夢か、現か、幻か。

何故か、首相が凶弾に倒れた事も。
曖昧な記憶でしかなくなり。

まるで別次元の問題にすり替わているのに誰も気がつこうともしない。

「何かが違う。」
家内がぼやく。

確かに違う。
でも何が。

それに、わかったところで、どうしようもなし。
時が無為に流れていく。
まるで、車が、壁にぶつかる瞬間をスローモーションで見ているような。
目の前の聞きになす術もなく。

ウクライナにロシアが侵攻し。
既に風化が始まり。
台湾に中国が攻めると言ったって。
自分とのかかわりが見えてこない。

誰がやっても同じさと。
でも、何もせずにはいられない。

まるで、時間の糸が時ほぐれていくように。
時代も歴史の、この世もゆっくりと崩壊し始めている。

確かに、夢の中にいるのかもしれない、
でも、現でもある。

妙に、生臭い風が吹いてきた。
生温かく。

もう夢を見るのやめよう。
そう思ったところで、夢は夢、微睡めば、見たくなくとも見てしまう。
これも人の業か。

止めようよもうこんな事と叫んでみたところで。
声は虚空に消えていく。

もう夏は終わる。
いつの間にか終わる。
そして秋が来る。

時がたてば夏の夜の夢と笑えるようになるか、どうかも、未だに。定まらない。
ただ、夜が長くなる事だけは確かだ。